和歌と俳句

齋藤茂吉

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さむざむと 時雨は晴れて 妙高の 裾野をとほく 紅葉うつろふ

起伏は 北へのびつつ わたつみの 海よりおこる 山ひとつ見ず

道草の うごくを見れば 妙高の 山をおろして こがらし吹きぬ

もみぢばも うつろふころか 山ひだに 屯せる雲 うごきそめつつ

北空の けむりのごとき 涯まで 越後の國に 山は起伏す

妙高の 裾野のなだり 音してぞ 木枯のかぜ ひくく過ぎつも

まぢかくに 直にいむかふ 黒姫や 山は楽しと 言はざらめやも

しぐれの雨 あさまだきより 晴れをりて 北國街道 ふくかぜ寒し

むらぎもの 心しづけし 雲はれて 入日にかげる 黒姫山

しぐれ降る ころぞと日和 さだめなき 越後の山に 一夜ねにけり

郊外の 家の庭には 唐辛子を むしろのうへに もり上げて干す

亡き友の なきを悲しみ 信濃路の み寺のなかに 一日こもりぬ

かりがねは 夕空たかく 飛び行けり いづらの里に 落つるにやあらむ

くれなゐに 群がり咲ける 小花さへ はかなしき ものとぞおもふ

いとまなき 吾なりながら 冬ふけし 信濃の國の 河さかのぼる

みすずかる 信濃の友の たまはりし 紙に渋ぬりぬ 日向にいでて

わが庭の いまだ枯れざる 小草には つゆじもしげし 空晴れしかば

うつしみの 吾が目のまへに 黄いろなる 公孫樹の落葉 かぎり知られず

ももくさに けふのあさけの つゆじもは 時雨の雨の ふれるがごとし

北びさし 音するばかり 吹くかぜの 寒きゆふべに われ黙しをり

雪げ水 谿にみなぎり とどろける みちのく山に うぐひす啼くも

さわらびの 萌えいづる野に われひとり けふも来にけり 鎌をもちつつ