和歌と俳句

齋藤茂吉

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吉林の 市街に拠りて 松花江 氷にこほりつつ 東むかふ

松花江の 空にひびかふ 音を聞く 氷らむとして 流るる音を

海拉爾を ふたたび過ぎて 松花江の 氷らむ時に 吾は会ひにき

この河の 氷らむとして 流れゆく きびしき音を 今ぞ聞きつる

眼したに ひびきをあげて 氷り居る 吉林の河は おそろしきまで

わたりつつ 言も絶えたり 眼のまへを 大き流は 氷らむとする

かくのごと 凍りつつ行く 河音の ひまなき音の 何にするどき

松花江の 河の中より 音ひびく ながれのまにま 氷の割るるおと

ひと断の 激ちとなりて スンガリイの 河の氷は ながれて止まず

くにとほく 行方北向かふ 冬河よ スンガリイの氷は 割れつつ流る

現なる ものにもあるか かかれとて 氷にこほりつつ 逝く河のおと

はて遠く ここに迂回する 松花江の 氷らむとする 音のきびしさ

スンガリイは 凍りあひつつ 音ひびく その鋭きを また聞かめやも

現身の 世のものとしも 思ほえず 氷りつつゆく 河ぞ聞こゆる

時の間も 氷の群は ためらはず この大河を うづめて流る

たえまなき 峻しきおとは 国断ちて 北ゆく河の 氷らむ音ぞ

牛橇は 吹雪おとろふる 間を求め いまし松花江の 氷をわたる