和歌と俳句

齋藤茂吉

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山脈は 極まりて見えず 黄に枯れし たかき葦むら いづこまでつづく

山のうへに うねりて行ける 石の城 なほ山とほく 長き城はや

年古りし 山の砦の うねれるを 海べの関に はじめて見たり

山海関より おこる山脈 たたなはり 奥の山には 雪降りにけり

寒空の 雲に触りつつ 長城は うねりて行けり 幾谷わたる

日本の 汽船も居りて 白浪の とどろき寄する 海のべ行くも

海のおと にぶくしながら たかまりし 砂丘のさまも 島国ならず

やうやくに 遠ざかるころ 海のうへに かすかなる雲 浮きつつゐたり

ひむがしに 山海関の 山脈は 後へになりぬ 日に照らされて

川青く うねりて流るるを見れば 民の営み 此処ゆ近からし

旅人は 時に感傷の 心あり 犬ひとつゐて 畑を歩く

山東を 来れば一つなる 相にて やまの斜面に いまだ穴ごもる

石門を 過ぎつつ目路の 近くにも 青き畑を 見るべくなりぬ

冬の日の 光やはらかき 真昼どき 水のにごれる らん河を過ぎつ

山に沿ひて 流れてきたる 大きなる らんの白沙に 龍巻のぼる

しばらくは 平野を走る 遠そきて 見ゆる山々 藍になりたり

らん県を 過ぎて幾時の 眺めかな 紅くつらなる 山の上の観

あまつ日に 照らされし地平の 彼山は 沙漠の山と 相見る如し

旅とほき 吾にもあるか しな国に 低くよこほる 黄なる山々

北平の はじめの旅に 露西亜人と 吾は起臥す ひとつ車房に