和歌と俳句

齋藤茂吉

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此処よりは 未だ見えざる 部落まで 驢に乗りてゆく 人にしあれや

この夏に 溢れし水に 此処にても 平たくなりぬ 土の家居は

驢に乗りて 行ける人等は 砂山の うねりのかげに なりて見えずも

赤き棺 ぽつりと野の上に 置かれたり 人死しぬれば 悲歎せられて

放牧の 牛驢羊が うちまじり 物襲なく 見ゆるたのしさ

ことごとく 平たくなりて 一部落 流れし跡あり 残念もなし

或処に 来れば沼地に 見え隠る 細きながれも ありとおもはむ

野の上を 横向きて行く 人見れば 驚くばかり 長身に見ゆ

おしなべて 見るものもなき 枯原に 土の家群が 時に聚まる

地平のうへに淡然に置かれたる ものの如くに 孤山がひとつ

土の家 くづれし跡が 幾つもあり ほしいままにも 家移りたる

気安くも 家移りゆく 民あらむ 馬牛などを 引連れながら

野のはてに かすかに見えし 黒きもの 近づけば高々と 積みしほし草

あるところにては 部落の 真近くに 氾濫したる 砂原のあと

はつかなる 茂みがありて 雉子飛ぶ かかる機縁も われに親しき

夕がたに 近くわが汽車 さしかかる 遼河の砂原 もりあがりたり

地平より 大雲いでて かがやけど 空のひろらに 驚かざらめや

礙ぐる ものなき空の むら雲の 雲の末辺に 雷鳴るきこゆ

平より 平にわたる この空に 充つらむ雲し おもほゆるかも