和歌と俳句

齋藤茂吉

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二たびを 奉天に来て 居るひまに 「乾屎けつ」の 事を知りつる

ゆふぐれの 厚徳福に 入り来り かお羊肉の 煙の香愛しむ

日を継ぎて 遠山河の 涯まで われ導きし 君は痩せたり

はるかなる 旅なりしかば つつしみて 酒酔ひしれし こともなかりき

導きし 君がたまものや これの世に ありがたしとて おもひ堪へずも

とほき旅 なほし行かむと おもふにも 共に飯食はむ 君なしにあはれ

君なしに 寂しけれども 今ゆのち 一人旅路の 幾夜か寝ねむ

北平は なほし遥けし さむぐにに ひとりになりて 吾は行くべし

君なくて 直にし寂し 大き国 流るる河を わたりて行くも

くもり夜を 君にわかれむ ひとりなる 行方は白雪の 降り来む旅ぞ

地平より 鋭き山の 見ゆるとき 未だかがやく あかつきの月

黒々と 見えはじめたる 山なみの 前方に一色の 平沙あり

峨々として そびえし山の つらなりに 小さき三角の 山がこもれり

鋭くも 厳しき山の そばだつを みなもととして 河ながれ来る

寒風の 吹きのまにまに ひとしきり 鶉飛ぶ見ゆ 水あかるべに

窓外に 見え来りつつ 幾百か 赤土の墳墓 かたまりあへる

ひと色と なりて平は よこたはる 鋭くとほき 山のかなたに

時により 心きびしき ものにして 平野のうへに 好山とほし

目のまへを 鵲が飛ぶ 鵲は 水浜にも飛ぶ かなしき鳥か

ひろがりて 来る視界に 波動のごと 小鳥むれ飛ぶ 何の鳥かも