和歌と俳句

齋藤茂吉

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水辺を めぐり来りぬ あな清し ここの木立に 啄木鳥住むも

昆明の 池海の上に 風のむた 寒き浪よる 水脈のひかる間

白松の そそる大樹を 吹きゆきて この閣のまへに しばし風止む

仏香閣 登らむとする 石階に 吾ひとり蹲む 旅につかれて

西の空 風にこごりて 澄まざるを この高楼の うへに見てゐつ

高きより 目蔭するとき 西山を 越えて吹きくる 砂けむり見ゆ

たかだかと 吾等登りぬ 極まりに 「衆香界」の 額の閣あり

人ひとり 水汲みのぼる 労生が この高きより 暫らく見えつ

冬さむく なりたる空に おぼろにて 玉泉山の あららぎが見ゆ

日にきらふ わが眼下の みづうみに 波だちてくる 水脈も見るべし

古への 人も見たりき 閣のまへ 砂に棗の 赤き実が落つ

昆明の 湖のみぎはに 日はさせど 水泡かたより 氷りつつゐる

五方閣に 鏡ありたる 歴史をも 茫々として 旅人聴くも

西山を 後背にして 清けかり 玉泉山の 白塔ふたつ

われの来し 玉泉山の 白松は 空にせまりて 鳥さはに啼く

白巌の 打つづきたる ところより 汀におりぬ あはれすがしさ

「天下第一泉」にして 湧く水は 水泡の玉と 湧きまきのぼる

この清き いづみの上に もろ共に 鴨浮びゐて 楽しきろかも