和歌と俳句

齋藤茂吉

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広島の あがたを来れば 刈りのこる 稲田もありて まだ暖かし

もみぢせる 山峡をわが汽車ゆくと 汽車の煙は 草にうづまく

しづかなる 川は見えつつ 山峡を 南のかたに 繞れるらしも

石原に 沿ひて立ちたる 家むらは 石垣高く 築きてありぬ

川の瀬の はやきところも 見えわたり 北に向ひて 川上となる

高原と おもほゆるころ 山がはは にはかに細く なりたるごとし

日だまりの かたちをなせる 畑中に 稚児をりて 何か競へり

わが友の 生れし国を ながれたる 川の瀬ごとに 魚か遊ばむ

ほそき川 北へむかいひて いつしかも 分水嶺は 越えてありけり

まどかなる 心のごとく 吾居りて 三次の駅に 汽車は着きたり

北へむかふ 備後のくにの 冬川を 筏は流る 人ふたり居り

ここにして 三人あつまり 楽しくも もの定まれる 顔付をせり

うしなひし 物見つかれる 顛末も あはれに響く ユーモアーのみ

現身の 吾もこよひは たのしくて 君の鼾の そばにいねたり