和歌と俳句

齋藤茂吉

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中海の 蓮は枯れぬ ほうほうと 葦の白波 飛べる鵲

白き橋 ひくく懸かりて この海の 南の方に 氷はりゐる

この海の 心細しく 白き橋の 欄に小さき 獅子をかざれり

瀛台の ベツトの側の 楽書を われは愛しみて 写し帰るなり

南海の ひくき汀の 水のおと 鴨のたてたる 音を伝ふる

南向く 階より直ちに 水となり 迎薫亭に 波の寄る見ゆ

紫の 屋根の瓦の 霜解けぬ 湛虚・春明の 文字をとどむる

南海に もとほりぬれば 北海の 白き楼閣 ここよりも見ゆ

明の思宗 殉国したる 悲しきを 楡の樹うゑて 現世に伝ふる

のぼり来し ここの高処に 白松の 風を聞きつつ 立ちつくすべし

北平に 入りくる駱駝の 一隊が 小さくなりて 眼下に見ゆ

紅き鼓楼 背後の鐘楼 東北に あたりてとほき 雪かがやく山

景山に のぼり来りて 楽書を われ写し取る かなしきゆゑに

今日此処に来て 爪ながき 宦官といふものを はじめて見たり

乾隆の 考賢皇后の おん像は 回々にして 龍に乗りいます

十刹海は 古文人の 愛でにしを 現代青年は ただ素通りず

北海の 水さむざむと しづまりて 何に鳥群るる 多きこの鳥

大き鷺 水のなかにて 動かざり 配合として かささぎ鴉

太陽が 朱色になりて 西山に 入るを見て居り 楼のうへの吾