とひはつる心ぼそさにわが世さへ今日をかぎりになりぬべきかな
これや誰ありしやたれと思ふまに心をみだる筆のあとかな
しるらめや宿の梢を吹きかはす風につけても思ふ心を
新古今集
あまのかるみるめを波にまがへつつなぐさの濱をたづねわびぬる
ましばこるしづのつまきとなのらせてわが人しれぬ思ひにぞなく
思ひやれ春のあしたの雨のうちに軒にあらそふ袖のけしきを
いかにしてかげ絶えぬらむもろともに井出の玉水掬びしものを
恋しさも忘るばかりのうきことに弱きは袖の涙なりけり
なぐさめてしばし待ちみよ先の世に結びをきけるちぎりもぞある
袖ぬれしその夜の雨の名残よりやがて晴れせぬさみだれの空
よとともに絶えずも落つる涙かな人はあはれもかけぬ袂に
恋せずは人はこころもなからましもののあはれもこれよりぞしる
逢はでのみ帰る野原の露なれどかふるは惜しき萩が花ずり
うらみてもなほたのむかな身をつくし深き江にある印と思へば
むかしみし野中の水にたづねきて更に袖をもぬらしぬるかな
千載集
たのめこし野邊の道しば夏ふかしいづくなるらむ鵙の草ぐき
おなじ世にいきの松とは聞きながら心つくしのなかぞ悲しき
難波江のあしの古根はわれなれや恋路にひぢて年のへぬらん
新勅撰集
いかにして知るべなくともたづねみむ信夫の山の奥のかよひ路
千載集
思ひきや榻の端書かきつめて百夜もおなじまろ寝せむとは