北原白秋

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油壷から 諸磯見れば まんまろな 赤い夕日が いも落つるとこ

夕焼小焼 大風車の 上をゆく が一列 鴉が三羽

後のが 先になりたり あなあはれ 赤い円日 岬にかかり

赤々と 夕日廻れば 一またぎ 向うの小山を 人跨ぐ見ゆ

油壷 しんととろりと して深し しんととろりと 底から光り

金色の 三角畑に しみじみと 人参の種 蒔けるなりけり

巡礼と 野の種蒔人と なにごとか 金色の陽に 物言へりけり

ひさかたの 金色光の 照るところ 種蒔人三人 背をかがめたり

順礼が ほのかなる言 云ひしかば 種蒔人三人 背をかがめたり

虔ましき ミレエが画に似る 夕あかり 種蒔人そろうて 身をかがめたり

照りかへる 金柑の木が ただひと木 庭にいつぱいに 日をこぼし居り

はるばると 金柑の木に たどりつき 巡礼草鞋を はきかへにけり

順礼が 金柑の木を ふりあふぐ 熟れたるかもよ 梢の金柑

かくなれば 金柑の木も 仏なり 忝じけなやな 実が照りこぼるる

かうかうと 金柑の木の 照るところ 巡礼の子は ひとりなりけり

照りかへる 金柑の木の かげを出で 巡礼すなはち 鈴ふりにけり

まかがやく 金柑の木の 蔭に立ち 黒き土くれ 人掘りかへす

人ふたり 光りよろめく 金柑の 金色の木の根を うちかへす

さくさくと 大判小判の 音すなれ 金柑の木の 根かたを掘れば

この畑の 金柑のかげで 云ふことを よくきいてくれ それなる娘

和歌と俳句