北原白秋

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かうかうと 今ぞこの世の ものならぬ 金柑の木に 秋風ぞ吹く

吹く風は せちに心を かきむしる 人間界の われならなくに

いつしかに 金柑の木と 身をなして 吹く秋風に 驚くわれは

夕されば 閻浮檀金の 木の光 またかうかうと よろめきにけり

ここに来て 梁塵秘抄を 読むときは 金色光の さす心地する

西方に 金の遠樹の ただふたつ 深くかがやく 何といふ木ぞ

かうかうと 金の射光の 二方に 射す野つ原に 木の二本見ゆ

夕されば 金の煙の 立つごとく 木はかうかうと よろめきにけり

金色の 木をかうかうと 見はるかす これは枯野の 草刈り男

金色の かの木のかげに 照りかへり 動くものあり 人にはあらじか

虔ましき 金の歩みや つづくらむ 親鸞上人 野を行かす見ゆ

樹はまさしく 千手観音 菩薩なり 西金色の 秋の夕ぐれ

かうかうと 風の吹きしく 夕ぐれは 金色の木木も あはれなるかな

見るからに 秋のあはれに 吹きしくは 金色の木の 嵐なりけり

こなた向き 木々のかなしく いたぶるは 金色の風の 吹けばなりけり

なほしばし 我を忘れて 金色の 木々のかなたに 飛ぶよしもがな

和歌と俳句