北原白秋

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三日の月 ほそくきらめく 黍畑 黍は黍とし 目の醒めてゐつ

黍畑の 黍の上なる 三日の月 月より細かき 糠星のかず

森羅万象 寝しづみ紅き もろこしの 房のみ動く 醒めにけらしも

三日の月 真の闇夜に あらねども 真の闇夜より さらにさみしも

ほのかなる 人の言葉に 触りたれば 驚くものか 黍は小夜ふけ

三日の月 谷底見れば 廓には ならぶ華魁 豆のごとしも

小夜ふけて ほかに人こそ 音すなれ いづこの闇を 行けるなるらむ

烏羽玉の 闇の粟穂の 奥ふかく するどき猫の うぶ声きこゆ

闇の夜に 躍り出でたる 金無垢の 生の子猫の うぶ声きこゆ

母猫の 大黒猫の 闇に坐り 大まかに啼く 子を産み落し

闇の夜に うまれ落ちたる 猫の児が あはれあはれ猫の 声すもよいま

闇の夜に 猫のうぶごゑ 聴くものは 金環ほそき ついたちの月

何事か 為さでかなはぬ 願湧く 海の夜ふけの 闇のそよかぜ

闇の夜も 生活たたねば となりびと 舟ひき下ろし 漕ぎいでてゆく

戸あくれば 金無垢の月 いま走る 幽かに暗き そよかぜの中

闇の海に 金無垢の月 いとほそく かげうつしほのに 消えにけるかも

闇ふかし ひとりひそかに 寝ざめして 思ふはおのが いのちなりけり

空暗く 入海暗し 海よりも 黒き鳥見え 松動く見ゆ

一心に 島と陸とに 鳴く蟲の 聲澄み入れり 闇夜なりけり

和歌と俳句