北原白秋

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城ヶ島の 燈明台に ぶん廻す 落日避雷針に 貫かれけるかも

城ヶ島 さつとひろげし 投網の なかに大日 くるめきにけり

大日輪 落ちつきはらひ 伊豆の岬の 天城山へと かかりけるかも

今宵ことに 月明らかに 海原の 底のことごと はつきりと見ゆ

赤々と 十五夜の月 海にあり そこに泳げる 人ひとり見ゆ

大の月 海の中から まんまろく まろびいづれば 吾泣かむとす

憤怒 抑へかぬれば 夜おそく 起きてすぱりと 切る鮪かも

波つづき 銀のさざなみ はてしなく かがやく海を 日もすがら見る

網高く 干せるその上の 漣の かぎり知られね さざなみの列

見廻せど たへて人こそ なかりけれ 海の漣 ただ光り消え

漣の このもかのもの 時折に 光りまた消え 照り光り消え

日もすがら 光り消えたり うねり波 思ひ出したり また忘れたり

取とまり 光りゆらめく 海中の 雁木ひとつを 消ぬがにぞ見る

音もなき 海のかたへの 麗らなる わが屋の下の さざなみの列

音もなき 真夏昼なか 音もなく 鳥は雁木を 去りにけるかも

麗らかや 此方へ此方へ かがやき来る 沖のさざなみ かぎり知られず

漣の 上にちらばる さざなみの うへのつり舟 見れど飽かなく

漣の 光りかがやく 昼深し ぽんと林檎を 棄てにけるかも

うつらうつら 海に舟こそ 音すなれ いかなる舟の 通るなるらむ

和歌と俳句