北原白秋

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しみじみと 海に雨ふり 澪の雨 利休鼠と なりてけるかも

城ケ島の さみどりの上に ふる雨の 今朝ふる雨の しみらなるかな

北斎の 簑と笠とが 時をりに 投網ひろぐる ふる雨の中

海の中に 光り輪を画く 澪のすぢ 末はわかれて 行方知らずも

漕ぎつれて いそぐ釣舟 二方に 濡れて消えゆく あまの釣舟

二方に なりてわかるる あま小舟 澪も二手に わかれけるかも

通り矢と 城ケ島辺に ふる雨の 間の入海 舟わかれゆく

大きなる 紅薔薇の花 ゆくりなく ぱつと真紅に ひらきけるかも

目を開けて つくづく見れば 薔薇の木に 薔薇が真紅に 咲いてけるかも

薔薇の木に 薔薇の花咲く あなかしこ 何の不思議も ないけれどもな

風くれば 薔薇はたちまち 火となれり 躍りあがるらむ うれしき風に

驚きて わが身も光る ばかりかな 大きなる薔薇の 花照りかへる

ただ見れば これかりそめの 薔薇の花 驚きて見れば その花動く

午過ぎて ますます紅き 薔薇の花 ますます重く 傾きゆくも

薔薇の花 うちゆるがむと さしかども 思ひかへしつ ますます光り

大きなる 何事もなき 薔薇の花 ふとのはずみに くづれけるかも

和歌と俳句