北原白秋

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鳥の声 黒樫の木の 照り円き 梢よりきこゆ 日の光満ち

遠丘の 黒樫の木の 幹なかば 銀ながしたる 秋の海見ゆ

遠丘の 向うに光る 秋の海 そきくつきり 人鍬をうつ

岬見え 向うの海と こなたの海 光りかがやく こなたは暗く

丘の上に 海見え海に 岬見え その上の海に 舟いそぐ見ゆ

朝出でて ゆき遥けかり あま小舟 黒胡麻のごとく 真昼散らばり

大空に 銀の点々 ちらばるは あまのつり舟 櫓を漕げるなり

この岬 行き尽すまで 急がむと 思ひきはめて 吾が辿るなり

金いろに 光りてほそき 磯はなの その一角に 日の消えんとす

網の目に 閻浮檀金の 佛ゐて 光かがやく 秋の夕ぐれ

両の掌に 輝りてこぼるる 魚のかず 掬へども掬へども また輝りこぼるる

うしろより 西日射せれば あな寂し 金色に光る 漁師のあまた

駿河なる 不二の高嶺を ふり仰ぎ 大きなる網を さと拡げたり

落つ日の 照りきはまれば 何がなし 小鳥岬を いま放れたり

赤き日に 真向に飛ぶ 鳥のはね 遂に飛び入り 行方知らずも

海の波 光り重なり 日もすがら 光り重なり また暮れにけり

和歌と俳句