北原白秋

25 26 27 28 29 30 31 32 33 34

真名井わく 沙漠のかげの ひと屯 ただにあはれに 家居しにけり

鄭家屯 落つる日赤し 畳には ざらつく砂の 数光りつつ

傳家屯 夕かげ暗し 地に低き 土の家群の 煙あげつつ

赫爾洪得 夕日の照りに うつら出て 駱駝黙居り 高き砂山

赫爾洪得 廃墟の窗に 見とほして 落日赤し 汽車はひた行く

此所にして 地平は高し はろばろに 雲居垂れたり 日の落つる雲

雲かとも 山かとも思ふ 地の黝朱 蒙古は曠し 日も落ちはてぬ

雁わたる 青磁の透る 空のみぞ 地平に残り 砂山暮れぬ

外蒙古 雪のこるらし 秀に浮きて 遥けき山は 島のごと見ゆ

砂窪に 泡だちしるき 雪のいろ 夕光にして 今は解けつつ

柔らかと 砂山の雪の 薄ねずみ 夕棚雲の 色ふくみゐる

砂窪に 火照り沁み入る 日の暮は 眼もつぶるまも けだし匂へり

影ここだ アンペラ小積む 塩包 いま逆光に 赤き日はあり

蘇満国境 春冴えかへり 砂山の 低山斑雪 また吹き曝れぬ

満洲里 風車片破れ 吹き曝るる 残雪の丘に 寒ぞきびしき

砂寒き 低山の裾を 来る駱駝 後先の影が 夜明いばえつ

暁星や 上眼駱駝は み冬月 庫倫よりか もこりもこり来し

風車丘 ここにし立てば 西伯利亜の 低山つづき 雲こごる見ゆ

内蒙古 春おぼろならず 早やい寝て 駱駝が宿は 月に鎖したり

駱駝づれ 月夜寒きに 膝折りて 高粱稈の 下ひびくらし

影多に 瘤ある駱駝 膝は折り いづく方となき 上眼してあはれ

和歌と俳句