北原白秋

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公主嶺 馬駆る見れば 裸馬にして 著ぶくれの子が 風あふり来る

寒々と 屯し移る 羊にて 端驚けば 皆騒めきぬ

旅人我 汽車の窓べを 飛び過ぐる 木の葉のごとし 風に追はれぬ

群れにけり 曠野寒きに ぶしゆぶしゆと 黒豚づれが 土饅頭食む

家の影 隣に映り 冬日なり 表しめたる 村のひそけさ

端の反り 同じ影もつ 家どなり 春先といふに 寒き陽にあり

幽かに 我は見るなり 浮雲の 二塊三塊 野の空のはてに

いづくへ行く群ならむ 空低く 雲黄なる野に 人つづき見ゆ

ただに見る 影と日向の 曠き野に つづく楊の すがれ木にして

冴えにけり 楊は玄き 根の上に 春の温みの 未だいたらず

ちかぢかと 我は眺むる 野の日向 遊ぶ唐子の 影走りをる

墨にして 或は匂はむ 枯山の 楡のほづえの 細描の線

冬の楡の 繁みにほそき 髪の毛は 梳櫛の歯に 梳く細みなり

冬に観る 楡の寒けき 墨いろは 毛描の線に 描かば描くべし

冬楡の しみみか黝き ほづえには 鵲らしき 巣もあらはなり

しばしばも 見つつ超え来つ 枯山や 楡と楊の 寒き陽の色

条ほそく 隙漏る冬の 日の光 鵲の巣は 枝にこごれり

寒林に 石廟小さき このあたり 糞叉子掻きて 人暮れ早し

石壁の 銃眼透す 空のいろ 高粱稈は 積みて冬なり

氷閉ぢ きびしくしろき 川ひとつ ただにかびろき 枯原は見ゆ

和歌と俳句