北原白秋

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筑波嶺の いただき清に うちひびく 山毛欅の林の 青がへるのこゑ

筑波嶺の いただき通る 夕立雨 わたくし雨の くだり去りにし

山毛欅の原 朝居る雲の つぶさには 下しづくして 音果つるなし

小筑波や 山毛欅の下枝の 若萠に 蛙ころろぐ こゑのさやけさ

筑波嶺の いただきよりぞ 見おろして 雲はうち乱る 表裏となく

にひばり 筑波をくだり あはれあはれ ケーブルカーの 索条迅し

見てのみや 泣きてこらへし 筑波嶺を 君いまはのぼる 人が背にて

君を負ふ 人の後蹤き のぼる道 石ころ暑し 赤き角々

山のぼる 人の背ゆ もの言ひて 筑波根草は 君が教へし

まだ見えて 人の背にある 君と思へ 頂の雲の いまはつつみぬ

高天原 男峰の岩の いただきに 影黒くある 君と思へや

女男の峰 ひとつ筑波の 頂に うべ鎮もらす この夜いみじく

筑波嶺の 男峰落ちゆく 雲あらし ふりつつもあるか 下の葉山に

負さりて いや暑からし のぼりける 眼ざしたゆく 今は下りに

筑波嶺に ひとすぢかかる 男女の川 早やたえだえに 君はありにし

ここに見る 霞ヶ浦は 採る魚の わかさぎ色に しろく霞みぬ

和歌と俳句