和歌と俳句

正岡子規

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世の人は さかしらをすと 酒飲みぬ あれは柿くひて 猿にかも似る

御仏に そなへしの のこれるを われにぞたびし 十まりいつつ

籠にもりて 柿おくりきぬ 古里の 高尾の楓 色づきにけん

柿の実の あまきもありぬ 柿の実の しぶきもありぬ しぶきぞうまき

おろかちふ 庵のあるじの あれにたびし 柿のうまさの 忘らえなくに

秋の夜を 呼べど宿直の人 寐ねて ともし火あふつ 物襲ふめり

もののふの 屍をさむる 人もなし 菫花さく 春の山陰

大原の 野を焼く男 野を焼くと 雉な焼きそ 野を焼く男

靄深く こめたる庭に 下り立ちて 朝のすさびに 杜若剪る

人住まぬ いくさのあとの 崩れ家 杏の花は 咲きて散りけり

とばり垂れて 君いまださめず 紅の 牡丹の花に 朝日さすなり

赤き牡丹 白き牡丹を 手折りけり 赤きを君に いで贈らばや

車過ぎて 伽羅の匂ぞ 残りける 都大路の 春の夜の月

古庭の 萩も芒も 芽をふきぬ 病癒ゆべき 時は来にけり

霜防ぐ 菜畑の葉竹 はや立てぬ 筑波根颪 雁を吹く頃

野の道に 咲ける白梅 善き人の あたり見まはして 枝折りて行く

山里は 春まだ寒し 旅人の いづこの花か 手折来にけん

冴え返る 舟の篝火 小夜更けて 浅草川に 白魚取るらん

枯芝に 霜置く庭の 薄月夜 音ばかりして ふる霰かな

後夜の鐘 三笠の山に 月出でて 南大門前 雄鹿群れて行く