和歌と俳句

花冷え

醍醐より夜をとふ僧や花の冷え 蛇笏

花冷えの朝や岩塩すりつぶす 三鬼

花冷えのおのづと消えてゐしたばこ 

花冷や剥落しるき襖の絵 秋櫻子

およそものわびしき能登の花冷よ 立子

花冷えの悪寒叢雲われをのせ 朱鳥

花冷えのふなあしおもきうれひかな 万太郎

花冷のなつかしきかな隅田川 立子

花冷えの城の石崖手で叩く 三鬼

さくら冷え老工石を切る火花 三鬼

一燈にみな花冷えの影法師 林火

花冷や明日へ急がんこころもなく 草田男

桜冷え看護婦白衣脱ぎて病む 三鬼

花冷の門の仁王の壊えすすむ 爽雨

夕波の瀬田の花冷帰らなむ 爽雨

万亭の花冷えくらき襖かな 万太郎

花冷えの閉めてしんかんたる障子 万太郎

花冷えをゆく灰色のはぐれ婆 三鬼

桜寒む生死の境くつきりと 多佳子

桜寒む熱き白湯飲み生一途 多佳子

花冷やひそひそ話耳につき 立子

花冷えのうどとくわゐの煮ものかな 万太郎

花冷えのみつばのかくしわさびかな 万太郎

花冷えの燗あつうせよ熱うせよ 万太郎

その人もつき添ふ人も花冷に 汀女

花冷やまだしぼられぬ紙の嵩 林火

いくたびも花冷えいへり旅の妻 林火