塔みゆる道となりたる櫻かな 万太郎
奉納の幟みえきし櫻かな 万太郎
眼にあまる万朶の桜生き残る 多佳子
人の世のかなしき櫻しだれけり 万太郎
あきらめてしまひし末の櫻かな 万太郎
ちるさくら目抜通りに蛇の舌 不死男
花ほつほつ夢見のさくらしだれけり 林火
月光裡しだれてさくらけぶらへり 林火
雪洞は仰向きさくら俯向ける 誓子
遠さくら雨意深まるに従ひて 悌二郎
忘れめや牧の桜に雨やどり 悌二郎
さくらしだれ諏訪の浮城湖つづき 林火
咲き満ちし櫻に芦生息ころす 悌二郎
咲き満ちし櫻の隙に沼の景 悌二郎
出口なき沼は流るる夕ざくら 悌二郎
櫻咲くまづ真向の川風に 汀女
桜さく前より紅気立ちこめて 誓子
さくらを吹き且つ神将を吹きとほる 誓子
夕ざくら檜の香して風呂沸きぬ 林火
日はあれど淡墨櫻宵のごと 林火
淡墨櫻風立てば白湧きいづる 林火
念々にさくらしだれて地も熱す 林火
薄墨に散りてこの世のさくらならず 林火
満齢古稀さくらのもとにけふ一日 林火
櫻咲き御所から鳥も来るといふ 林火
かりそめの街とは言はじ夕櫻 汀女
鴉去りいよいよ白き櫻かな みどり女
田に付けて遠き櫻の花唇かな 不死男
焼亡の寺へしだるるさくらかな 林火
櫻濃く鶏鳴のぼる天守閣 林火
世は櫻そろりそろりと進む足 不死男
隆々の木瘤にさくら満てるなり 林火
年毎を死に近づきてさくら見る 林火