その日さへ 過当のことば たまはりし 日とただおもふ さめたる女
ひるの雨 ながめくらしぬ 夜の雨を ききあかさむと ながはぬ人も
類ひろう 秋の山野に 薄居て 朝は日を生み 夜は月を生む
けざやかに 夏草の花 やしなへる 温室の十五に かへまし君を
朝がほの 苗はならびて 水沼の 鷺のかたちに 三つの葉ぞする
春の朝 何をもとゐに たくみける 思ともなき ものの残りて
たたずめば あわただしげに 水の音 砂をはしりぬ 有明月夜
何王の 女にかもいます 否これは 人にもあらず 鏡のかげぞ
咲く花の 木の本祭 恋人の ころもの下に 歌をこそおもへ
河床の 草に霜ふる 夜と見つつ 急ぎぬ君が 山もとの灯に
なつかしき 海の砂場の しらしらと 夜あけしここち 雨はれし雲
調楽に ふくべく笛は もてならす 一の人見む 目をもてならす
ゆく春の ひろき裾野の 一つ家は 山霧にほふ 夕となりぬ
茅花さく 野をなつかしみ 夢に見ぬ 君が飼ひける 四つ白の馬
二三人 何をしのびに 泣くことか わがくろ髪の すそにかくれて
白き菊 ややおとろへぬ 夕されば 明眸うるむ 人のごとくに
よくうたふ 百舌の友なる 黍春女 となりにありぬ 冬の雨の日
たけたかき 原の夏草 海辺の 少女おもへと 朝風わたる
玉にやや まさる枕し 夜の夢 あかつきの夢 見て足れ君よ
いくとせか うれひの家に 堪へこもる 魂よびたまふ 死のおん神