わが産屋 野馬のあそびに こぬやうに 柵つくらせぬ しら菊の花
夢の中に 御名よぶ時も 世にまさぬ 母よと知りて さびしかりけり
いかめしく 松柏しげる 山に居て 千年つきず われおもふ母
よわうして 謎ときがたみ きりぎしの 海のまぢかに さそひまつりぬ
君しるや わが七鉢の 桜草 春さめふれば 庭に袖ふる
牡丹ちる 日も夜も琴を かきならし 遊ぶわが世の はつるがごとくに
春の潮 海馬や海の いきものや 通ふ路とも 月白うして
若き子の 無明にまよふ しるべにと 玉の瞳を 二つゑられぬ
もも色の 靄の中より 春二日 竜王の女の 涙ふるかな
野分姫 ももたり手とり しろがねの 靴してきたる 花ぐさの上
あかつきの 天の藤原 ほの見えて わか紫の たな雲立つも
その馬に 一箭を射るは かく問はれ 城の姫とぞ かたりつぐわれ
風狂の いと大いなる 神人の はた偉なるも 超えにきわれら
わが兄は ききよく云ひぬ 洛陽に 十六人の 人恋ふてふを
胸は泣く これは無尽に 人ひとり 思ふ力の なきわびしさに
赤らかに 雑木の垣の からす瓜 なびくつる引き 君まつわれば
涙おちぬ 春の夕は ふるさとの 姉が娘の 文の上にも
大河ゆく 平野は海に 似てあけぬ 山あれすらし 上つ毛の国
円山は それとも見えず 暮るるまで 橋杭しろき 春の雨かな
枯れ葵 なえたる衣の 袂とる 思もすなり 見いでつる時