すだれして 轎輿まゐれな 夏の人 みてわたらうず 暁の水
おしへされ 野ばらの花は ありきとよ あづけし人に たまふことづて
おん瞳 つとまもらひぬ 美くしさ 二なきもの見る わななきしつつ
水ちかき 瑯かんの家 そのまろき 柱をおもひ おんひざによる
世はなりぬ 龍女が梭の 音もひびき 陸より海の なつかしき日と
山祭 つかうまつりに 太皷ゆく うしろにそひぬ 三吉野の路
死ぬ思 作る日悦喜 またなき日 ありてことばの かずになれにき
あゝひつぎ 白丁十人 目をすぎぬ 秋なるときを 思ふまぼろし
君と恋ふ よろづつくして 魔よけせむ 心ながらに 見えぬものかな
春の鳥 今巣がくれて ある冬と 猛におもひぬ 胸をおさへて
ちさき神 鏡にありて 魔に云へる 王者にゆけな くろ髪の君
目のいとま たまふと秋の日は城を はなれていりぬ 大あら海に
芦の湖 いく杉むらの 紺青の 下にはつかに わが見てし時
みづうみの 底より生ふる 杉むらに ひぐらしなきぬ 箱根路くれば