火に入らむ 思ははげし 人を焼く ほのほはつよし いづれなりけむ
見給ふは 明日死ぬ羸馬 ききますは 千とせに知らぬ 人恋ふる歌
枕には 琥珀を斫らせ 黒髪の うつるをめでて 妹と寝ぬ
むらさきの 帳如来の はしら絵の 古りぬるなかに うぐひすを聴く
ゆかりなき 心のくまに 出没す 魔につかはれて あるらむ君は
相恋ひぬ 慢気慢心 たらざるを 知らぬ少女と 清き男と
胸の埴 秋にかわかず 冬しらず 四時富饒なり 花うゑて見よ
五月きぬ からたちばなに 幕うちぬ 樹下に家する 人のならひに
吾妹子は 春の夜あくる 東山 赤らひく見て 死なむとぞ云ふ
船の足 平沙をあゆむ 人に似て うめるを思ふ 春の日の灘
うぐひすの 羽の香たかむ 天上の 楽所わらはの みどりのころも
きづつける 胸とも悲し 心とも 空処に名をば つけつつありぬ
麗色の 二なきをそしり おん位 高きあざみ たのみける才
赤城山 百合しろかりし ふもと野の 夜あけを思ふ ほととぎすかな
うらみ歌 たどたどしきを ききつけぬ 思ひたまふか けものの族を
ものなげに ゆるぎありきし 炎の輪 やがていにける 胸はさびしき
野分かぜ 上なだらなる 朝海に かげろふ秋の 日をめでにけり
紫の 頭巾したれば 尼顔の をかしき京の 君と夜ゆく
春まつと 云ひをさめたる 杵歌に ざざめく庭の むれに雪ふる