静かなる 相模の海の 底にさへ 鱶住むと云ふ なほ寄りがたし
子らの衣 皆新らしく 美くしき 皐月一日 花あやめ咲く
りやんりやんと 錦の機の 梭の音す 皐月の山に 家もあらなく
獅子彫りし 石の柱に 輿よせて 来よと云はせぬ 夏の夕ぐれ
もろこしの 葉に夕露の しろき路 こほろぎ啼けば あゆみかねつも
朝霧の 中をこし子は もの云はず 手にうすいろの 花おきて去ぬ
この恋は われやゆづりし ゆづられし 初めも知らず 終りも知らず
友病むと 公ごとに 悲しまむ それよりもげに かなしきものを
われを忌み 彼をし恋ふる ただいまの 人の心も もととしがたし
御やまひを 親よりすぐれ なげくなる 一人の人に われおとらめや
春草の 花の上にも ちりぬべき 涙にあらず 心もて泣く
このきはの 熱き涙も いづかたへ おつるぞとおもふ ねたみ悲しみ
頂の 平かなるを たのみつつ 険しとききし 心によぢぬ
われ泣かむ 道もとめしか いのちさへ かけて計りし たはぶれごとか
その日恋ひ その日あらはれ そのただち 君えしすぢは あはつけけれど
悲める われと伝へぬ みだりにも ものの際目を つくる人たち
九品 これは下品の ためしにも 見むと来ませし 君にやはあらぬ
そればかり 後なしと云ふ ものがたり 稚児だにあかず ましておん妻
おどけたる 一寸法師 舞ひいでよ 秋の夕の てのひらの上
鳶いろの 山と夕の しら藤と 君をおもへる こころの人と