和歌と俳句

與謝野晶子

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何ごとか おのれの上を かたりつつ はかなげにしも わらひ給へる

ただかひな 同じからぬに 巻かれしを 悔ゆとかたれば おどろきし君

恋と云ふ 今も忘れむ そのかみも もののまぎれの 当夜のことも

何ものの 跡とも知らぬ 窟あるは 山のさがなり なとひそ心

七日して 亡びし恋の 中にさへ うれしきことも 悲しみも見ゆ

口づけを 惜むあらぬ あかしをば ことさらにしも 見せたまふかな

恋ふる子に こらしめごとを 案じ居る にくき少女の 戸の中に入る

えぞの海 醜丹島に 親あると 名のらぬほどに 逃げてかへりき

夏山の 社は雷に くだかれぬ われのやしろは たれのくだきし

直き道 すこぶる逸れて わが心 あゆみぬと知る 人の子ゆゑに

紫の 小傘の玉の 柄となりて 野行き磯ゆき そはましものを

髪は髪 帯は帯とし 似てありぬ こち向く顔は ちまたの少女

しら刃もて われにせまりし けはしさの 消えゆく人を あはれと思ふ

夏の日も ありのすさびと 云ふことを 知らぬやからは 毛ごろもを着る

平かに 来て平かに 去ぬ浪を こころとすなり よろづのうへに

わらふ時 身も世もあらず 海に似し 大声あぐる 兄とおもひき

言にいでし 怒ともなき 安からぬ ものをおくりて わかれにしかな

おん言葉 序次もなしに みだらにも くりかへすべき わが明日ののち

ああ暦 日日にくられて また君を 見ぬのちの日と なりにけるかな

一しづく 髪におつれば 全身の ぬれとほるらむ 水たたへたり