朝寝髪 たれがとくらむ 木曽少女 小櫛売りつつ ものをこそおもへ
門の石 三つたたけよと 聞きしこと 忘れなと云ふ 靴のかがとに
水いろと 古代紫 ならべるに ひとしと思へ いづれをとらむ
天の原 神くだりこし ごとくにも 船一つくる あかつきの海
木の枝に 猿の皮干し 木のもとに やまめとらへむ 釣たれて居ぬ
大海の ひとでの貝は みにくかり 砕くるたびに ひとで生るる
あきつ羽の 衣まとへば はだかろし 薄きこころも まれによからむ
早くこよ 抄のたがひに 君ならぬ 唇も吸ふ 男の前に
赤らひく 恋人のため おとろへし わが妻のため 生きむとぞおもふ
あるが中の くづの中なる 人くづの 世のおもむきも 憎からぬかな
しら梅の 夜明にあひぬ 閨の炉の たきものの香に わかれてくれば
冬の神 もとどりはなち 駈けたまふ あとにつづきぬ 木がらしの風
恋ふてふは ものを奪ふに ひとしきと かねておもへる 君にとられぬ
ときにふと 心を閉ぢて 君いれぬ をかしさをわれ 覚えけるかな
久しき日 消ぬとわびたる 心の火 このごろもゆと つげもかねつつ
いつの日か わがよろこびを くつがへす 少女のむれと 若人のむれ
老人に 話伽して 雨の夜の 九時をかぞへて かなしくなりぬ
大きなる 簑きせましを あはれなる 時雨の中の 古のうまやぢ
百ばかり 鯨ならべる 夢を見し その海のさま おもへるといふ
くれなゐと 云ふ色一つも 目の前に うかびきたらず さびしき夕