いささかは 老い給へども 箔はげし 御仏よりは 尊き吾妹
深き井の つるべ上ぐれば 秋立つと くさめし給ふ となりの翁
朝風を さくらは吸ひぬ 君と寝し 撓ある髪を われは吹かせつ
大和なる 若草山の 山の精 来てうたたねの われに衣かく
千びきなす 岩を負へとも 運べとも 云はず彼の子に 逢はさしめ友
わがひぢに 血ぬるは小き 蚊の族 もするとかたきを さそひけるかな
くろ髪を ないがしろにも し給ひぬ 御経そらんじ 夜を一人寝て
家に居て さびしき人は 八ちまたの 人中行きて 涙わすれぬ
彼れ汝の いひなづけとぞ おどされし 童に似たる 人見てをかし
今の世の 美くしさをば その日まで ふつふつわれは 知らざりしかな
花かをる 園にさめたる 少女子は 君が心に おくれてむくゆ
親家兄 神なにあらむ とぞおもふ ああこの心 たけくあれかし
陶器の 大き鉢して みちのくの 津軽の海は 夕立を受く
米買ひし あとの小銭に 紅梅の 二枝をかへて われ待つ背子を
輦の 宣旨これらの 世の人の うらやむものを われもうらやむ
のちの日を ふとも思はれ 君を見る 目もなきさまに 心ふたがる
いざなぎと いざなみの神 生み忘れ いにし歌人 今見つるかな
いとせまき 道の摩合 さばかりも 近く見ざりき 君とおのれは
寒暖計 こはせしわれと わが従兄 水銀の玉 くだきてあそぶ
菊の花 古女君 紙燭して のめりやるなと おくりたまひぬ