和歌と俳句

與謝野晶子

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二十四の わが見る古往今来は すこしたがへり 恋人のため

わが家には 母の母より つたはりて 男に云はぬ いましめのある

男きて 狎れがほによる 日を思ひ 恋することは ものうくなりぬ

うき指に 墨汁ちりぬ 思ふこと 恨むことなど 書きやめて寝む

たわやめは 面がはりせず 死ぬ毒と 云ふ薬見て 心まよひぬ

中ごとを すると軽くも 見るものか おきふしわれは のろへるものを

いかづちの 音もおのれを いつはりの 少女と云ふも きけば涼しき

わが心 ひと時あまり 青めりと きかむばかりに そむきしや彼れ

人の云ふ 敵のごとく 思はねど われをたたへに 彼のこぬゆゑ

水錆沼に 焼石ひろふ 山なるも 鬼界が島に あるここちしぬ

長椅子に 膝をならべて 何しるや 恋しき人と 物おもひする

妹に 人のささやく 声などを ききつつ夜は 板敷に寝る

ほこりてふ 険をたのみし 城ぬしの 泣きたまふ日を つくりにしかな

恨みせず 横裂したる 口などを 逢はぬ夜夢に 見たまはむとて

まちまちに 歎く人らの 中に居て つねにわらへる わが思ふ人

恋をわれ うしとなげきぬ そを忘れ やすらふひまの なきわびしさに

八ちまたの ちりあくたにも おとりたる 恋しありくと 今日君を聞く

聞くごとく たがはざりせば わが友は つむじ風にも 似し恋男

君に文書 かかむと借りし みよし野の 竹林院の 大硯かな

鈴ふりに つかはしめたる 童らの 小床をつくる 秋萩の花