北原白秋

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蒲の穂の さむざむ明る 沢の曲 鷺多くゐれど 声ひとつせぬ

たまさかに 明る薄陽の か遠くて 夕さり寒し 蒲の穂の立

蒲の穂に 葦の穂先は とどかねど とどかぬなりに 揺れの寒けさ

蒲の穂に ひとひら白き 冬の蝶 ふと舞ひあがる 夕空の晴

わが宿は 雀のたむろ 冬来れば 日にけに寒し 雀のみ群れて

追はれ追はれ 木へ逃げたかる 田圃雀 一としきり鳴けば 夕かげり疾き

一しきり 鳴きて飛び去る むら雀 枯れしほづえには 赤き柿いくつ

百舌鳴けり 柿のほづえに ただ一羽 雀つぐめり 柳に四五羽

古池に 寒うしだれし 枯柳 向うに小さく 白き不二見ゆ

古池に 破れて陽の射す 葭簀垣 今朝も寒むそな 雀が一羽

一色に 寂びれはてたる 冬の庭 夕さり明る ややしばらくは

今さらに 寂じと云ふも あはれなり 荒れはてし庭を ひとり眺むる

ただ一つ お庭に白し すべすべと 嘗めつくしける 犬の飯皿

古池の そばにすがれし 河楊 不意にうごかす 雀が白く

末広に 陽のかげるらし ほそり木の 枯木の空の 気遠き見れば

咳すれば 寂しからしか 軒端より 雀さかさに さしのぞきをる

さびしきか 雀廂の 破れ間より 頭うごかす 逆さ頭を

古池に 破れし葭簀の かげうつり 明るけど寒し 日の傾きぬ

むきむきに 雀すぼまる 枯木の枝 夕さり寒し 陽のかげりつつ

ふと見たら 破れた垣根の 隙間から 銃口が出てる 雀射つかなや

誰ぞ誰ぞ 雀射つなと 荒らけく 声かけて寒し 障子閉めたり

和歌と俳句