北原白秋

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玉蜀黍 かがよふ中に うつら来て しばらくはゐしか 誰か去りたり

しづけさや 黍は黍とし 照り恍けて 遠き葉ずれの 音立てにける

金色の 日の光ばかり そよぐなり 丘のかなたの 玉蜀黍は

護謨の木の 畑の苗木の 重き葉の 大きなる葉の ふとひびらぎぬ

肉厚く 重き護謨の葉 かがやき久し おのづからふかき 音たてにける

昼深き かがやきのはて はつたりと 護謨の厚葉が 垂れ暗みたり

父嶋よ 仰ぎ見すれば 父恋し 母嶋見れば 母ぞ恋しき

ちちのみの 父の嶋より 見わたせば 母の嶋見ゆ 乳房山見ゆ

父嶋の そばに兄じま 弟じま 母のそばには 嫁妹じま

帰らなむ 父と母との ますところ 妻と弟妹が 睦びあふ家

波まくら 幾夜経にけむ ほのぼのと 今朝目さむれば 松風の音

恐ろしき 鬼ヶ島ちふ 鄙の島 その荒磯辺の 松風のこゑ

さうさうと 松風騒ぐ 青ヶ島 悲しとはきけど ここも日本辺

世の中は 常かなしもよ 沖の島 ここの辺土の 松風のこゑ

あな愛し ここは日本の 青ヶ島 つくづくと聴けば 雀子がこゑ

鬼ヶ島 沖の小島の 荒磯辺に 遊ぶ雀の こゑの愛しさ

人にきけば 鬼ヶ島ちふ 鄙の島 その荒磯にも 雀むれあそぶ

小笠原 三界出でて はるばると 帰りつきたり この戸開かせ

小笠原の 海の土産は 何々ぞ 珊瑚椰子の実 大きごむの葉

ひさびさに 仰ぎまつれば 涙なり この父母を 棄てて遊びき

和歌と俳句