蒼天を 見て驚かぬ 賢しびと 見ておどろけや いにしへのごと
ひさかたの 四方の天雲 地に垂りて 碧々しかも 蓋のごと
大空を 見ておどろかぬ 浦安の 青人草が こころ知らなく
天つ日の 光に馴れて 世人みな 眠たごころの 未だ飽かなく
幼子を見よ 彼等あそぶと 蒼天の 大円蓋を 我物にけり
常高く 何か坐すとは 仰げども 遥ばろしかも 空のあなたは
遥ばろし 空を仰げば ますらをの こぼるる涙 とどめかねつも
わが行は のどにはあらずよ 白鷺の 浮足吾妹 くりくが去ね
思へ妻 草の隻葉の ひとひらも ひとひらも 天つ光に 濡れかがやくを
天地を 泣きくつがへし 幾千日 泣きひたすとも 我は貧しき
青山を 枯山になして 泣きいざちて 泣きおらぶとも 我は貧しき
父母の 裂けしころもの ほころびを 縫ふ針すらも 無きを吾妹よ
金なければ 憎し隔れば 恋しちふ かかるをかしき 事あらめやも
老いらくの 父を思へば おのづから 頭ふかく垂れ 安き空しなし
ははそはの 母に向かへば おのづから 涙はふり落ち来て 答ふすべなし
うち背ひ 妻を憎めば 火と燃えて 笑ひひたせまる 大き眼おもほゆ
垂乳根の 親とその子の 愛妻と 有るべきことか 仲違ひたり
垂乳根の 母父ゆゑに 身ひとつの 命とたのむ 妻を我が離る
ますらをや 貧しきばかりに うつしみの 命とたのむ 妻に嗤はる
声あげて 笑ふ男子が 眼の痒ゆさ 霹靂なし 妻に憤ばゆ