北原白秋

17 18 19 20 21 22 23 24 25 26

大王の 行幸かあらし 旗立てて の御門を 騎馬出づる見ゆ

瓦斯の燈に 吹雪かがやく ひとところ 夜目には見えて 街遥かなる

雪の夜に たまたま遇へる 白き牛 荒々し息の 触りの暖とさ

しんしんと 真夜の暗みを とほる牛の 額角うつ 牡丹雪の玉

小夜吹雪 激しくは打て 角を低め たじろぐ牛の 眼かがやきぬ

吹雪やみて 月夜明りと なりにけり ふと湧き起る 牛の太吼

巷辺の 真夜の吹雪と なりにけり 広告の燈のみ 赤く変りつつ

かうかうと 仏うつつに 見えまして 立たすけはひ近し 真夜の大吹雪

吹雪かぜ 向き変りたらし 引きすぼめし 夜の傘を 急に吹きあほる

夜の吹雪 ややあかるらし 思はぬに 吾が先ちかく 袂はたく音

吹雪やみて 夜のふけまさる 路次の闇に ふと立ちてきけば 金よめる音

雪けぶり 立てて幽かに 飛ぶ雀 笹の葉の間に 羽たたけり見ゆ

こんこんと 笹竹原に つもる雪 紅き提灯 つけて人来も

笹藪から 雪の田圃へ ぽつつりと 紅豆提灯 出て来てあはれ

いまだ起きて 火だね埋めゐたり さらさらと あたりの沈黙に 雪さやる音

この寒き 雪の夜中に さらさらと 澄みてひびくは 何の葉つぱぞ

雪の夜に 麻布小衾 ひきかつぎ おもふは生みの 父母のこと

衾かつぎ 聴けばかすかや くらがりに てふてふか何か 翅たたきつつ

右の足を 左の足に のせにけり まだも積むべし この夜半の雪は

足の指 互に触るる 夜のさむさ 現身我と 思へば眠られね

いまだ世に 親鸞上人 おはすとき 石の枕に 雪ふりにけむ

目のさめて 待てば遅しも 冴々し ふくら雀の 朝のさへづり

和歌と俳句