北原白秋

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女童が まつ毛にやどる 露のたま 月のありかは 雲の上にして

木の間洩る 谷地の灯あしの 線引きて 蛙が啼けば 子は寝ぬるもの

ひとり行く 歩みとどめて 眺めけり 水芋の葉に 月の宿れる

おのづから 歩みはとまる 道すがら 芋の立葉の ことごとの露

月を指す 幼兒ゆゑに あはれとは いみじかりける ことを言ひつる

珠ごと 露の立葉に 月は照り 清き童の 面あげて佇つ

犬の吠 近き月夜の 野路の霧 誰かころろと 歩みかへしつ

清らけき 母を思へば 月の面に 微塵の氷 吹きつくる影

白鷺の 月に見えつつ 飛ぶ影は 正眼ながらに 霧しまきつつ

母を思ふ 現の聲や 夜風の 硝子戸たたき 消ゆる疾足

秋ちかき 月の夜ごろは 雲と言へば しろく流れて 片明りつつ

涼しさは はてなかるらし 眞木山や 隣る月夜の 小竹の葉にして

影いくつ 涼し月夜や 古木の梅 つつじ藤錦木 ほそき孟宗

梨の棚 あをきすはえに 照る月の 光しづもり 鳥屋の戸も見ゆ

草ごもる かけろ探すと 子らは出て 月にわけをり 薄き月夜に

掻きわけて 涼しきものは 篶の秀や 月の夜ごろの 山いもの花

篶の葉に 月の光は 遊べども 吾が利心よ いまだ和まず

咲くものは つひにあはれよ 月夜照り 山いもの蔓に そよぐ涼風

おもしろの 月の夜ごろや 草に居て 眼に入る物の 風そよぐなり

和歌と俳句