北原白秋

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雪つもる 窗の内らの ゆふつかた 火映親し 誰か爐に居る

雪しづり けはひ幽けき 夜の間にも 紅毛びとは 火にか樂しむ

マントルピース 火立華やぐ かたへには 金髪のふさ 透りゆらげり

穏しき 笑なるかも 片頬照り 爐に寄る母の 何か言ひつる

老びとの 紅き上衣は をさなくて 灯にものがなし 毛絲編みをる

咲きあかる 花かあらしも 木原山 松の木のまの しろきを見れば

櫻咲き 馬込の谷も しづかなり 霞むかぎりが しろくのみ見ゆ

向丘の 木のまに見ゆる 赤がはら 家古風にして 春日おだやか

本門寺の 裏山道の のぼりおり 松の木のまの 山ざくら花

花曇 源藏原の 夕影に みづみづし燈の ひかりいでたる

をさなきは をさなかれよと 數花の 通花の門に 立たせつるかな

女童は 心くるへり 崖の端の ほのかに萎ふ 晝貌の花

晝貌や ここだかなしき 女童を 日ざかりの門に 隔てさぶしき

うち見れば 童なれども 女子や まさなきことも 美しみ思ふ

つきほなく かなしかるかな かがなへて 年のへだたりは 三十あまり五つ

言ふことは ねびてきこゆれ 女童や 母を離れて などか死にせむ

夏衣の 正絹が裾の 高踵 なんぞ童が 少女さびする

女童は 水に戲ゆる しろがねの 鱗のごと かなしかりけり

晝餉には 庭の芝生に ぢかに坐り わが眼先の かきつばたの花

飯粒に 沁みつつ白き 日のひかり 子ら食みあまし 父われが食む

和歌と俳句