北原白秋

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消え易き 花火思へば 短夜は 玉とうちあげる 青き蓋

水の上や 夏は花火の 宵々に ひかる投網を かいひろげ消つ

短夜の 馬込なりしか 梟と 木菟のこゑの 互みにはして

子鴉は 嘴黄なり 車前草や 穂に立つ道の 埃踏みつつ

秀に搖れて いよよ木高き 影見れば 下枝もふかく 曳きにけるかな

たけ高き ヒマラヤ杉の 星月夜 二階の窗に 灯のうごく見ゆ

門庭よ 冬の夜寒も 燈は洩れて 住みつきたらし 人香こもれり

この門よ 槇も通花も 目立たずて すがしかりしか 雨つづりつつ

かくばかり 楓ありとは 知らざりき 繼ぎ繼ぎて染む 秋を驚く

この庭に 一木二木と 照らひたる かへるで紅葉 時了りけり

鶏頭は つぶさに 黒き種子ながら 鶏冠の紅よ 燃えつきずけり

わが背戸は 食用菊の 黄の花の 残りとぼしく 霜の滴りつつ

石庭に 冬の日のさし あらはなり まだ凍みきらぬ 青苔のいろ

庭苔に 木の根影ひく 朝の間は 冬も幽かに 美しくして

木のま洩る 冬の朝日の すがしくて 時ならぬ土の かをり息づく

うすうすと 朝日さし來る 椎の根に 心寄せつつ 冬はこもれり

檜葉垣の 外とほりゆく 影ながら 早や親しもよ 冬は透き見ゆ

木槲の 一木の表 闌けにけり み冬ながらに 日ざしもちつつ

木槲の 葉洩れ日見つつ 思ふなり 濡石に出でて 歩く蟻ゐず

和歌と俳句