北原白秋

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向ひ見る 冬の梢と なりにけり 細みつくして 眺めまさりぬ

晝餉過ぎ いくら経たぬを 木群には 早やしろじろと かかる夕霧

この日ごろ 近き空地に 來て騒ぐ 軍馬ありけり 風の夜寒を

軍馬の群 この夜とどとし 來て居りと 思ふだによしを 千葉聯隊の馬

觀兵式の 豫行演習に 朝出でて 夜は寝に還る 軍馬の群らし

山茶花や 井の水汲むと 來る兵の バケツ音立てぬ その凍土に

兵士來て 井の水汲むと 我が太郎 眼もまじろがず 山茶花の午後を

夕凍を 子らと見に出る となり原 軍馬は群れて 還りゐにけり

夜に還り 朝發つ馬の 草床は 風吹きぬけて 置く屋根も無し

濃霜置き 軍馬入り臥す 隣原 夜はふかくして 騒ぎぬるかも

霜は満ち 軍馬のたむろ しづもらず 糠星の數 ただにきらめく

夜のほどろ 騒ぎ立ちゆく 音すなり 觀兵式に 列なる馬なり

大君の けふみそなはす 軍馬なれ 蹄の音も さやかに發つべし

駒竝めて 兵還り來ず 代々木より ただち本隊へ 駈けにたるらし

隣の原 また騒ぐなし 風のみぞ 夜どほし寒き 空に地にきこゆ

和歌と俳句