北原白秋

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十二三頭 馬乗り入れて 來りけり このだくを見よと 少年騎馬隊

木槲は 冬によろしき 門庭を 馬糞火氣立ち 騎馬は足踏む

息しろく 凛々しかるかも 少年騎馬隊 馬上敬禮の 眼を向けにけり

夕凍を 門出づる子ら 馬上なり 早や疾駈に 駈けつつゆくらし

門庭に 馬糞火氣立ち 日は寒し すべなあはれと われは掃きをり

この月を 小竹の葉叢に 影さして 飛びちらふ見れば 雪はおもしろ

寝帽 つけてまだ讀む 月の午後 しきり粉雪の けはひさらめく

樂しみと 心こめゆく 夜のさなか 出で入るふかき 息づきを吾れは

ほれぼれと おのれ遊ぶと たのたのと 磨る墨のいろは ひとり吾がもの

磨る墨や にじむ光の 粒だちの にほひこまやかに のりて來るもの

樂しみと ひとり恍れつつ 磨る墨は むべこまやかに とろりとあるべし

草假名は 心ゆくなり 細がきの 面相に書けば なほとおもしろ

落ちてけり あはれよと見る その棚の 通草とどとして 積む雪とともに

のいろ みなぎる見れば 日の暮は 下沈みつつ よく積みにけり

玻璃の窗 棧の隙吹き 吹きたまる 雪片しろし 小夜ふけてける

夜はふかし 隙間吹き入る 雪の粉の 今は小床に 飛び亂れ積む

夜のふけの 鏡にうつり 幽かなり 雪片は白し つもりつつ澄む

水の手に さけぶ野鴨の 敷きけば ねもごろならず 月夜きびしき

和歌と俳句