北原白秋

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吾が庭は 若木錦木 もみぢして 椎の根方も 照りとほり見ゆ

光無き 冬の入日の 朱のおぼろ 西の曇りの あやにしづけさ

神無月 合歓の老木の もみぢ葉の すでにわびしく 濡れわたるめり

朝にけに 時雨なづさふ 雑木立 最寄りの丘も 染みて來にける

十方に 放つ黄金の 日あしなり 欅の寒き 冬の木のうへ

群禽の 木末にきほふ ひとなだれ 遠のながめも 寂びあまりけり

み冬づく 丘の家居に 立つけぶり 湯氣おほけれや あたたかく見ゆ

目にたのむ 寒き木の間の 赤屋根も 煙見せつつ いつか暮れたり

暮れにけり 師走の谷地の 家びさしに こごりて白き 寒靄のいろ

こま形の 銀杏の散葉 黄に冱えて その向き向きを 霜のよろしさ

土に凍みて 今朝の落葉は おびただし 木履つつかけ そこら掃きゐる

黄なる葉と 褐色の葉と ちりにけり 黄なる銀杏が まれにこまかさ

枯れつつし 色に目だたぬ 雑木やま 向ひは霜の 晴れにたるらし

立ちほそり 寒き木ゆゑに 裸木や 霜朝の空に 末光るなり

冬の日の ひかり冱えたつ 浅葱は 添ひゆく子らの 頬に映るらし

ほろほろと 行くにくづるる 崖の土 こごろきびしき 霜ぞ立ちたる

男の童 ちちの杖とり 犇とうつ 霜柱しろし 此の霜ばしら

こごり立ち しづけかりしか ひた乾く 地膚はららかし 踏む霜ばしら

和歌と俳句