和歌と俳句

齋藤茂吉

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帰還せる 看護婦隊の 記事ありて 朝のうちより 涙いでたり

肉体に 自浄作用の あることを 吾聴きしより 三十三年経たり

一夜明けば かかれとてしも 思はめや 屋上園に 消のこれる雪

小さなる 矩形の鉢に 朝よひに ぶなの幼木は 冬木立なす

五寸にも 充たぬ木にして 紅梅の 蕾が一つ はやも匂へる

ソロの木の まだ稚きが 五本たち 山の木原を あひ見る如し

ソロの木は イヌシデといひ 或る学者 アカシデといふ ソロにて好けむ

橢円形の 鉢に並べる ソロの木は 二月にほそほそとして芽こもる

きさらぎの 鮒をもらひぬ 腹ごとに 卵をもちて いかにか居けむ

間を置きて にぶき鳴動の つたはるを 汝ひとりに 関はらしむな

飯の恩 いづこより来る 昼のあかき 夜のくらきに ありておもはむ

石並めて 売り居りしかば とりどりに シナ国の山と 相見るごとし

Kurier四発長距離爆撃機 ことごとき近き 運命を持つ

重々と とよみはじめて 夜明けたる 梅雨入空に 啼くほととぎす

涯とほく 梅雨うごきしを 見つつ居り 追及きゆかむ 曇おもひて

北ぐにの 雪消たる庭 うかびたり 紅のにごりし 芍薬ひとつ

やまかはの かたまりあへる 平面図 年老いし人も 目守らむとする