和歌と俳句

加藤暁台

こゝろほどうごくものなし春の暮

春の夜の月も推なり梅柳

はるの夜の月より明て天竜寺

春の夜や何事もなき三輪の杉

春の夜の月に宿かれ花柑子

ともし火にこがる ゝ蝶を夢路かな

梅に月朗詠うたふ人あらむ

くらき方はけぶるがごとしはるの月

おぼろ月宇治の山辺を行ひとり

大ぞらにかりがねくらし春の月

鶯の嘴あらひせり紙や川

鶯と顔見合する折戸哉

うぐひすの七ツとまりや清閑寺

鶯の咽ふくらめしゆふ日かな

八重霞日落ていまだ夜ならず

山くれて霞下せり大炊川

春風や浅田の小浪あさみどり

はるかぜに吹れて落す羽織かな

鳥の羽を見れば行なりはるの水

春の水東寺の西にみる日かな

しらうをの骨身を浹すか ゞりかな

しら魚やうき世の闇に目をひらき

軒うらや干鱈かけたる鹿の角

信楽の茶うりがさげし干鱈かな

日くれたり三井寺下る春のひと