北原白秋

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魚かつぎ 丘にのぼれば 馬鈴薯の 紫の花 いま盛りなり

れいろうと 不尽の高嶺の あらはれて 馬鈴薯畑の 紫の花

ある時は 眼ひきあけ 驚くと 鮮やかなる薔薇の 花買ひにけり

ある時は 命さびしみ 新らしき 蠣の酢蠣を 作らせにけり

ある時は 大地の匂 ぷんぷんと にほふキヤベツの 玉もぎて居り

ある時は 独行くとて はつたりと 朱の断面に 行き遇ひにたり

ある時は 巣藁代へむと せしかども その巣に卵の うまれてありけり

ある時は 赤々と日の そそぎやまぬ 首縊りの家を 見恍れてゐたり

ある時は 何も思はず 路のべの 赤馬の尻毛に 手を触れてゐつ

ある時は 遠眼鏡もて 虔しく あそぶ千鳥を 凝視めてあるも

ある時は 小さき花瓶の 側面に しみじみと日の 飛び去るを見つ

ある時は おのが家内を 盗人の ごとく足音を ぬすみてあるも

ある時は 誰知るまいと 思ひのほか 人が山から 此方向いてゐる

ある時は ただ専念に 一匹の 大鯛釣ると 坐りたりけり

生きの身の 吾が身いとしみ 牛の乳 まだきに起きて まづ吸ひにけり

生きの身の 吾が身いとしも 鯛釣ると けふも岬の 尖端に出で

生きの身の 吾が身いとしく もぎたての 青豌豆の 飯たかせけり

麺麭を買ひ 紅薔薇の花 もらひたり 爽やかなるかも 両手に持てば

生きの身の 吾が身いとしみ しくしくと 腐れ鮑を 日に干しにけり

和歌と俳句