北原白秋

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賢しくも をみななりけり 言ふことは 早や愛しけど 己が子をのみ

言立てて つぶさにはあれ 女子や 背戸の春日に 牛売り損ふ

よき母は 清くありこそ 照る月の 子を抱きつつ 草に立つかに

あなうるさ 草につくばふ 下闇の 蚊喰がへるが 咽喉鬼灯

日のまぎれ 我は直行く 野の道を 横さ走りて 鼬目翳す

ま日照りを 夜の陰草に たぶらかす 狐のやからは 犬に噛ましめ

物言ひて 清けかるべし 天つ日に 事あらはなり 隠すよしなし

身ひとつに ただに命を こめにける 自が学園は 他のものかは

夢なりや 縦しやかなしき 我が業と 君楽しみき 悔いむ何無し

事すべて 私ならず 道直に 公ありて 徹り行くべし

世に憂ふ 人が言挙 まつぶさに 言ふことはよし 多く私

悪しとなす 言の僻事 しからずば 神にありなむを 人なりき君

憂ふ無き 君たはやすし 事々に つくづつと思へば よく投げにけり

大味も 程にこそよれ 幾塩と 薩摩の鰤よ 塩つよく沁め

君繞る 人も実なし 必ずも 言ふらくただに 下心に思はず

時により 教へ賜ぶなり 世に憎み 荒ぶる言も 聴きて畏こさ

三つの円 この触れ合の 全けくも しかもほのぼのと よかりけるかも

因し無き 災いはなし この道や 心そろはざれば 皆くつがへる

挙り立つ なほし遅れき 何をしか い行きためらふ おぞの父母

還るなき 人を待つよは 落鮎や 多摩の瀬合に 朝釣るべし

諸人よ かもかくもなし 香にこもる 草深小百合 省みななむ

静かに観 君はますべし 善き悪しき 後つぶさなり その秋俟たむ

草の原に 蒼くいただく 天つ空 げに事も無し 大きむなしさ

天地と むなしかるべし 身ひとつに 何物も無し しかく生きなむ

思ひしみ つくづくと人は ありけらし 朝起きてそよぐ 草の葉を見よ

夜ふかく 今に思へば 善き悪しき すべて遥かなり 額垂るる我は

和歌と俳句