北原白秋

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月あかし ひと日吹き去りし 風速の とどろなりしか 今は気もなし

女の童 あかき石榴を 掌に置きて ゐやまひ正し 九九をこそよめ

髪いらふ 童女が笑顔 かぐろくも 艶だちにけり 父をうち見つ

額髪の かなし女童 うつら読み まぶた垂りをり 燈をあかく置き

女の童 肩に頬あて うつら振る 垂髪黒し 肩にしばしば

ねむからば まこと寝よとし かきおこし 燈は明らけし 女童を母は

硝子戸の 燈映見れば スエタアぬぐ 紅ゐの童女 眠気なりけり

ひたすらよ これの女童、文字書くと 習ふと書きぬ。 その鳥の 鳥によく似ず、その魚の 魚とも見えね、 あなあはれ 鳥や魚や、巧まずも なにか動きぬ、その影象。

このゆふべ 空やはらかし 物の葉に さだかにはあらぬ 狭霧なづさひ

中学生、我が子の太郎、 道ゆくと、読むと、坐ると、箸とると、帽かむりゐる。 制帽よ制服よただに、金釦しかとはめゐる。 うれしきか小学卒へし、中学やしかほこらしき。 蘇枋咲くと、樗そよぐと、霜置くとあはれ、一学期二学期よとあはれ、 日の照ると、雨ふると、風ふくと、寝ると起きると、制帽かむる。

はつ霜と けさは霜置く 門の田に 晩稲の黄ばみ 見つつ子は居り

和歌と俳句