北原白秋

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継ぎおこる 電気火葬の 火のとどろ 聴きつつすべな 舎利ひろひ分く

この仏 えにし深からず つつましく 舎利は挟みて 春雨間なり

この骨片 息づく見れば 下紅く 仏はいまだ 燃えていませり

目にとめて うち白みゆく 骨の火気 箸につきあはせ 拾ひつつあはれ

さらさらと 骨粉をあけ 夕さむし 隠亡はよにも 手馴れたりけり

迎ひ立つ 軍帽ひとつ まぶかなり 何か立ち待つ その焼がまを

火に葬る 今を盛りの 音聴けば おほかたは早やも ほろびたるらし

電気火葬の 重油の炎 音立てて 猛るたちまち 事は果てたり

手を洗ひ つくづつと見る向う 雨山の桜 しろく咲きたる

しみじみと 堪へてゐれども 身のほとり 数死にけり 若きともがら

かがなべて あはれよと思ふ 春かけて 幾人か死にし 我が眼さらずも

若人は 身をいたはらず ほとほとに 疲れつつ来し つひに死にせり

ことさら 我名告らずも 夜のふけて とどと叩くは 酒の神と知れ

この夜寒 とどと襲へば 戸はあけて 眼をこすりをらす 我なり将軍

夜風の 旋風なし入る おぞや我 酒出させ早やと うちころびぬる

冬の夜も とよもす酒の 友どちは おろかしくして かなしなかなか

冬向ふ 蠅の日向の 舌ねぶり あはれ手ぶりに まね申すなり

一莖の 草の葉にすら ひざまづく 心は思へ 彼等知るなし

朝雲の 大き御気色 かすかだに 仰ぎまつらば ただに涙ならむ

今朝やぶる 硝子のひびき 寒きびし 畏き方に きこえずあらなむ

血を流し 汝等あるべし 音のみか その頭割りよき 醜の鉢金

陣笠と 電燈の笠と 何そちがふ 凍みつくはただ 冬の蠅のみ

和歌と俳句