大きチエロ 立ち擁へつつ 夜は明し 押しあてて弓の いまだしづけさ
立ちかかへ 脊丈をあまる チエロの棹 新人はかなし 指にそだたく
四人立ち 揺り弾くチエロの 四つの胴 張り厚うして 響き合ひにけり
立ちかまへ 擁ふるチエロは 黄褐の 女体なり 弓のかいなづる胸
チエロの胸 ひたかきむしり 平なり 揺り曳きにけり 灯に光る弓
チヤイコフスキー 交響曲第六ロ短調「悲愴」なり 香蘭のことを いつか思ひゐき
薹に立ち 葉牡丹の花 のどかなり うつら飛びめぐる 虻と蜂と蝶
葉牡丹は 薹立ちほけて 日が永し 花さきにけり ちらら黄の花
国を挙げて 声はとよめど しづかなり 神の聖の み手とらす時
日のもとに 我が大君と みそなはし 春のあしたの 山ざくら花
大君の 大御軍の 行くごとく 日はさしのぼり 茜旗雲
この賜ぶは 陣太刀づくり 靖光の 鍛へに鍛へ 魂こめし太刀
わが歌を よしと嘉して たまひたる 陸軍大将の 太刀ぞこの太刀
白絹の 袋紐とき 柄がしら さしいづる見れば 黄金づくりの太刀
この太刀の 柄の猿手に 結ひ垂らし あなゆゆしかも 朱の緒の揺り
柄鞘の 黄金の桜 三つ明り 大将刀ぞ 褐の糸巻
心澄みて 抜き放つ太刀 春浅し 眼はきつさきに そそぎゐにけり
よく反りて にほふ焼刃の この気先 新刀は清し 冴えに冴えたり
丈夫や なにか歎かむ 皇国の 軍ならずも 歌をもて我は
大将刀 父のみ前に とり捧げ 言ふことはなし 今日はをさなさ
此の太刀は 皇国の太刀 胆むすび うちにうちし太刀ぞ 心して守れ
神ながら 清く明らけき ひた心 りゆうりゆうと振る 太刀に子ら見よ
あさみどり 満天星の芽の 日に映えて 新刀はよし 一ふり二ふり
うち粉叩き 叩きつつゐつ 此の太刀の 清の明りぞ 花と照り合ふ
大将刀 抜き放ち瞻る 我が笑顔 写真二ユースに 見しといふかや
日の真昼 我が大君は きこしめし 今いさぎよし 大陸軍の歌