北原白秋

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十の指 諸に手挟む 手裏剣の つぎつぎ疾し うつ手は見えず

手裏の技 神にもかめや 的の戸に うちし小柄は 我と礼し抜く

天地に 構ふる杖の 音無きは ただ水のごとし 無念無想の型

杖の手は 眼にもとまらず 引くと見せ 打つと返すと 十方無礙なり

青雲に 直にひびかふ 剣太刀 古へありき いまもこの道

晴けふを 暗きかもやと うちなげき ひたと瞻り居り わが太刀靖光

父の子は つくづくと見よ 我が太刀と 鞘はらふ太刀に 曇りひとつ無し

一方に 力あつむる 我が眼先 鋒鋩の蒼み 光発し見ゆ

ひたひたと 攀ぢてうばへる 塁にて 何を叫びし つはもの彼ら

つはものは あへぐいまはも をたけびて こゑあげにけむ 天皇陛下万歳

先き駆くと ただに勢ふ 軍の犬 ひとたび吼えて かへらざりけり

伝書鳩 荒野の空に 行き消えて たより無しとふ その鳩泣かゆ

斃れ伏す 軍馬あはれと 我が水の ひとしづくつけて 死にし兵はや

澄みわたり いよよ静けき 時今を 宮成らすらし 気配聴かゆ

金屏の 映えて畏き 真正面に 宮おはすらし あたりしづけき

秩父嶺に 神立ちわたる 朝の雲 み声いさぎよし 若き直の宮

朗かと 国の若らに 下したぶ 力雄々しき み声なるはや

聞えあげ 応へまつれる 人誰ぞ 涙せきあへず その声歔欷る

みそなはせ 天もとよめと けふ今ぞ 声揺りあがる 大日本青年団の歌

和歌と俳句