北原白秋

25 26 27 28 29 30 31 32

機械とは 将たやしづけき 鉄削る 旋盤のかくも 艶澄みつつ

複雑の 単純化とふ 一方に 機械はこころ こめゐるごとし

旋盤や ひねもす速れ 事といへば ただにリングの 幅削るのみ

旋盤に 立つ微塵見れば 鉄と鉄や 触れあひのただち 声いづるなり

冬といへば 精密機械 気先にも リングの寸分 ひた感じつつ

戦艦の ピストンリング 大きなる この円輪に 我はなごまむ

おなじ作業 ただに繰り返す のみなるを 愛し機械や 倦みもせなくに

れうれうと 子ら一つなれや リング削り 単純にただに うごくを見れば

香にほくる 鉄の微塵や 気色すら 旋盤も人も 別ししらずも

風荒れて 黄に霾らす 下つ空 大き年けさの 初日ぞのぼる

国挙げて 事に惑へり かくしてぞ 年明けたりと いふもおろかや

かきほぜる 埋火すらに 早や消ちて 後継ぎ足さむ 炭とてもなし

ゆゆしくも 照りつつ降らぬ 冬空の 寒にもちこし 水尽きむとぞ

我が観るは むしろ用なし けだしただ 盲ひつつくらき 眼にぞ堪へゐむ

天雲の 青くたなびく 大き陸 かくいにしへも 和したまひき

遥けくも 今に澄みたる 天の原 その蒼雲に 直むかふ我は

和歌と俳句