和歌と俳句

春雷

春雷の下に氷塊来て並ぶ 三鬼

春雷や伸ばしたる手にまつ青に 朱鳥

春雷や伽藍を蹴つて舞ひ上がり 朱鳥

春雷の翼に触れし灯かな 朱鳥

春雷の過ぎし北空鐡打てり 波郷

春雷や地階工事は地に沈み 汀女

遠き木の元に猫居り春雷す 波郷

春雷の熄みし口洞閉づるかな 波郷

春雷や胸の上なる夜の厚み 綾子

春雷は彼の湖に去にしかな 綾子

鏡中に眉こそ匂へ春の雷 万太郎

春の雷閉ぢし目の奥水々し 綾子

春雷や若々しきは地の底か 綾子

春雷の闇より椎のたちさわぐ 龍太

春雷やたどりつきたる京の宿 万太郎

罐詰で済ます昼餉や春の雷 真砂女

ぶつ切りの章魚出されけり春の雷 真砂女

春の雷湯殿に帯を解きをれば 真砂女

春の雷地の執着に誰となく 蛇笏

春雷にたかぶりしまま稿起す 爽雨

山の背をころげ廻りぬ春の雷 虚子

再びの春雷をきく舟かな 風生

春雷や芽を解きいそぐななかまど 波郷

春雷や愁思無量の観世音 秋櫻子

鯛煮えて海峡はしる春の雷 不死男

終焉のそのすこし前春の雷 青畝

奇蹟待ちつゝ春雷をききゐたり 立子

春雷や刻来り去り遠ざかり 立子

春雷のしふねきこだま相模湾 青畝

春雷の大轟のただ一度 立子

かく痩せて脛おもしろや春の雷 不死男

春雷や豚のくれなゐ耳にあり 静塔